スラマッマラム N.C.です。
注意:ここでの遅延回路は、モータドライバにおいてデッドタイム生成用の遅延回路のことです。また、ダイオードは「一方通行」ですが、何も「アクセラレイト(加速)」してはくれません。
以前、ショットキバリアダイオード(SBD)を用いた遅延回路に関する記事を書きました。しかし、遅延回路に適したダイオードは、どうもSBDではないようです。
たしかに、SBDの逆回復時間は一般的なPNダイオードに比べて非常に小さく、高速スイッチングに適しています。これは、SBDには少数キャリアの蓄積がないためです。ところが、SBDの接合容量はPNダイオードに比べ大きい傾向があります。(小信号用のSBDと一般整流用のPNダイオードの接合容量が同程度です。)
そのため、スイッチングの直前に順電流が流れない用途ではSBDの優位性が揺らいできます。遅延回路では、ダイオードに逆バイアスがかかった状態から無バイアスになるとき、コンデンサに充電された電荷が残っているうちはダイオードに順電流が流れますが、放電しきれば順電流はなくなります。つまり、次の信号がくるとき、順電流は流れていないことになります。したがって、遅延回路ではSBDが有利ではない可能性があります。
そこで、簡単な回路で、先週、実験してみました。実験回路は図1のとおりです。実験に用いたダイオードは
SBD:1N5818
PN:1N4007
で、どちらも耐電流は1Aです。
結果は、SBDの場合が図2で、PNダイオードの場合が図3となりました。時間スケールが違いますがパルスの幅はどちらも同じです。
入力信号の立ち上がりと同時にコンデンサの電圧Vcは0.33Vまで上昇しました。したがって、この時ダイオードを通過した電荷は310pCだったとわかります。
(これは、データシートのC-Vカーブを積分した値のおよそ半分です。)
入力信号の立ち上がりと同時にコンデンサの電圧Vcは0.046Vまでしか上がりませんでした。したがって、この時ダイオードを通過した電荷は40pCだったとわかります。(これも、データシートのC-Vカーブを積分した値のおよそ半分です。)
Vcが0.5Vを切ったあたりから、だらだらと下がるカーブになりました。これは、ダイオードがOFF状態に近くなり、ダイオードを通しての放電がほとんど行われなくなってしまったためです。しかし、実際の遅延回路では330kΩなんて馬鹿でかい抵抗は使わないので、Vcがだらだらと落ちていく時間は、はるかに短くなるはずです。したがって、この部分が致命的になることはないと思います。
以上より、遅延回路に用いるダイオードとしてはPNダイオードの方が適していると考えられます。
しかも、小信号高速スイッチング用のもの(1N4148など)を選べば、信号の立ち上がりの時にダイオードを通過してしまう電荷はさらに小さくなり、遅延回路の動作に与える影響はほぼ皆無になります。(データシートから見積もった値は、4.2pCです)
とはいっても、ダイオードがどんなに、「ここから先は一方通行だぜ!」といっても、ある程度は流れてしまうんだということは覚えていなければなりません。